土居幹治 専務取締役
愛媛大学農学部農芸化学科を卒業後、マルトモ株式会社に入社して
研究開発に従事。九州大学への論文提出で農学博士号取得。
「だしの伝道師Ⓡ」という二つ名で小学校や公民館での出前授業を実施し、
かつお節文化の拡散に邁進中。
「だしの伝道師®」土居でございます。
人類の役に立てば「発酵」、役に立たなければ「腐敗」です。
微生物の営みは同じなのですが…。
日本の伝統食品の多くがそうであるように、かつお節も発酵食品です。
ただ、発酵食品であることがあまり知られていないため、「知力体力時の運」でアメリカに行く、例のクイズ番組の問題にされたことがあります。
「かつお節はカツオにかびが生えたものである。○か×か」
私は「×」と即答したのですが、番組での正解は「〇」。その場でテレビ画面に向かって「ちょ待てよっ」とキムタク風に叫んでしまいました。
厳密には、「煙でいぶした荒節と呼ばれるかつお節にかびを生やしたものが枯節と呼ばれるかつお節」であり、鮮魚を想起する「カツオ」にかびが生えちゃったら、発酵ではなく腐敗じゃないか。
かつお節が世に登場した江戸時代初期、冷蔵庫がなかった当時は荒節では日持ちせず、かつお節の消費は生産地周辺に限られていました。それが元禄時代、たまたま優秀なかびにやられてしまった運のいいかつお節がいつまで経っても腐敗せず、おまけに味や香りも上々ということで、かつお節の発酵法が確立したのです。
かびが生えた方が保存性が向上するという逆転の発想。「腐っている」と早合点して捨てないで、発酵へと昇華させた江戸人の知恵と勇気が食文化を生んだことになります。
かつてのヒットアニメ「セーラームーン」の主題歌の一節に、「偶然もチャンスに変える生き方が好きよ」というのがありましたが、まさにその通り。偶然の腐敗を発酵という製法に変える生き方が好きよ。
枯節チャレンジ同様、わらの中で糸を引く煮豆(納豆)を最初に食べた人もすごいと思います。生半可な生き方や勇気では、そんなチャレンジはできません。
違う角度で発酵にチャレンジしたのが「お酢」です。江戸時代後期に握りずしを考案し世に広めた江戸前ずしの元祖、花屋與兵衛は仕込みに半年前後を要する従来のなれずしに代わり、屋台で手軽に味わえる握りずしをヒットさせました。
この握りずしに欠かせないお酢を酒粕からつくり、江戸に供給したのが尾張の中野又左右衛門です。もともとはお酒を製造していたのですが、あえて酢酸に挑戦し、ファストフードである握りずしの発展に貢献しました。
半年かかるなれずしの酸味は乳酸なのですが、あえて酢酸に挑んだ花屋與兵衛のマーケティング戦略。現代人も学ばねばと思います。
愛媛大学農学部農芸化学科を卒業後、マルトモ株式会社に入社して
研究開発に従事。九州大学への論文提出で農学博士号取得。
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