土居幹治 専務取締役
愛媛大学農学部農芸化学科を卒業後、マルトモ株式会社に入社して
研究開発に従事。九州大学への論文提出で農学博士号取得。
「だしの伝道師Ⓡ」という二つ名で小学校や公民館での出前授業を実施し、
かつお節文化の拡散に邁進中。
「だしの伝道師®」土居でございます。
かつお節製造工程の「焙乾」。
乾燥や香りづけ以外に、色を出す目的もあります。
食品パッケージを設計する際に気をつけることは、中身がおいしく見えることと、食欲をそそる色であること。
例えば、花かつおのピンク色は赤色系のデザインでより映えるし、いわしけずりは青色系がよく似合います。
飲食店でも器の色使いは重要で、白地に青色で絵付けされた皿は青色部分が10%から20%だと食欲をそそりますが、真っ青なお皿は逆に食欲を減退させます。もちろん、食材の色が鮮やかであれば、パッケージや器でごまかす必要などないのですが…。
ところで、食品そのものが持つ色の成り立ちはさまざまですが、2つの物質がひっついたり離れたりすることによって色を形成する場合があります。
前者の例が、かつお節。かつお節は生のカツオを湯で煮た後、煙で燻すことによって作られますが、煮た直後のカツオはいわゆる煮魚の状態であり、その色は灰色というか肌色というか、ちょっとくすんだ色。この色が、煙で燻されることによって鮮やかなピンク色に変わります。カツオの筋肉中のミオグロビンという物質が、煙の中の一酸化炭素とひっつくことによって発色するのです。
このミオグロビン、普段はせっせと酸素を運んでいるのですが、ひとたび一酸化炭素を見つけるとあっさりと乗り換え、バラ色、いやピンク色の人生を選んでしまいます。生物にとって中毒を起こして危険きわまりない一酸化炭素がそんなに好きなのか。バラ色の人生にはリスクがつきものなのかも知れませんね。
一方、離れて色が出る例がエビとカニ。エビやカニの赤は、これらを煮ることによって出てきます。これは、たんぱく質とひっついていたために本来の色を出せなかったアスタキサンチンという色素が熱によってたんぱく質と離れて赤い色となるわけで、いわば切られて本領発揮。逆境をプラスに変えるタイプです。
カツオとエビ、カニ。どちらも海の幸ですが、目的が何であれ赤い色を出すことで人々の食欲をそそり食卓を幸せにするのであれば、ひっついたり離れたりすることの意味は大きいと思います。
連日ワイドショーで放送される浮世の情話を見ながら「ひっつこうが離れようがどうでもいいじゃないか」とテレビに文句を言うのであれば、海の幸の色に秘められたロマンを想像してみましょう。
色にもいろいろなドラマがあるのです。
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